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散歩する侵略者



 イラストレータの鳴海(長澤まさみ)の行方不明だった夫「真治」(松田龍平)が記憶を失い帰ってくる。夫は記憶喪失の上に初めて人間社会に接するかのような行動を見せ、鳴海にガイドになってほしいと不思議なことを言う。翌日から、鳴海の心配をよそに夫は町に出歩くようになり、鳴海に「地球を侵略しにきた。人間の概念を集めている」と告げる。



 蝉が鳴き、日が傾きかけ日差しが落ちた夏の夕方、金魚すくいのビニール袋を片手に持ち家路につく女子高生。彼女が自宅に戻りしばらくして、助けを求め玄関から老婆が飛び出す。しかし、何ものかに家の中へと引きずりこまれ、ドアは無常にも閉じられる。家の中は荒らされ、血だまりの中に転がる何体もの死体と金魚、そして、その脇に佇む、半身に血を浴びた少女。彼女は血のついた自分の掌をゆっくり回しながら不思議そうな表情で眺め、やがてその手を口に持ってゆく。

 恐ろしいなにかが始まる予兆・・、いや始まりました。

 別の場所では、行方不明だった夫を迎えに病院に行く妻。そこには記憶を失い、まるで別人のように訳のわからないことを口にする夫の姿を目にする。夫は、妻に俺のガイドになってくれないかと、やはり訳のわからない言葉を発する。そして、あの殺人事件現場では、少しやさぐれたジャーナリストが取材を行っていると、不思議な少年が近付いてきて、俺のガイドになって欲しいと告げる。怪訝そうなジャーナリストは、目的はなにかと少年に尋ねると、「目的は地球の侵略」と応え、取材車に乗り込む。

 なかなか、何か得体のしれない不思議、いや恐怖と気味悪さを感じさせるオープニングに、これから始まる黒沢清ワールドに期待が高まります。

 その不思議な人たちは、街を出歩き、めぼしい人間に出会うと、欲しいキーワードの質問をして「もらうよ」と呟き、額にぽつりと指を当てる。相手の人間は涙をポロリと流し、その場に崩れ落ちる。彼らは、人間から概念を奪い取る能力を持ち、たくさんの概念を収集する人々、いや、「侵略者」。彼らの妙な明るさの中に、冷たい何かを感じることが、とにかく怖いです。そんな彼らを演じるのは、記憶喪失の男「真治」に松田龍平さん。「舟を編む」の馬締、「探偵はBARにいる」の高田など、ぬぼーっとした役がよく似合います。ジャーナリストと行動を共にする少年「天野」に高杉真宙さん。端正な顔で大きな瞳で見つめ、少し高圧的な態度に心が見透かされるようで怖い。殺人事件の生き残りの少女「立花あきら」に恒松祐里さん。この娘が一番怖い。成人男性を容赦なく躊躇なくなぎ倒し、無表情で意図も簡単に撃ち殺してゆく。この怖さを秘めた人物像を描くのが黒沢ワールドの一つの特徴でもあります。最近では、「クリーピー」(2016年)の周囲に行方不明者がいる怪しい隣人西野(香川照之)、古いところでは「CURE」(1997年)の猟奇殺人事件に関わる男(萩原聖人)などなど。今作品も、その不気味さと不快感の人物描写は健在です。

 一方、彼らの人間社会のガイドなる人々は、「真治」のガイドの妻「鳴海」に長澤まさみさん。夫の不貞を知っていて、夫婦仲は破綻しているため、夫の記憶喪失にも懐疑的で常に怒りとあきれモード。「天野」のガイドのジャーナリスト「桜井」に長谷川博巳さん。やさぐれて、いやいや始めたバラバラ殺人事件の取材で怪しい少年と出会ったことから、とんでもないネタを掴んだかもと懐疑的ながら野心の抱く男。このガイドたちがいて、人間社会の秩序となっているからこそ、その道理から外れる侵略者の怖さが引き立つ絶妙な設定です。

 さらに、彼らを追う謎の組織が登場し、彼らの確保と抹殺を企てることから、ただの概念収集旅だけでは終わらず、その攻防に緊張感が増します。組織はちなみに自称「厚生省」なのでお役所=公務員さんたちですかね。その割にはサブマシンガンなど隠し持っていますけれど。
 この、侵略者-ガイド VS 謎の組織、の駆け引きに加え、概念を奪い取られる人々が混ざり込む。概念を奪い取られて異常をきたす人間がいる一方、固執していた概念を奪われたことにより、自由になった人々(ひきこもりからの解放、学歴コンプからの解放、義務からの解放など)も描かれ、メッセージ性も帯びているとは・・よく練られたストーリーです。そして侵略者とガイドの一方的な侵略と諦め従う人々の関係から、行動を共にし、人間の概念を奪いながら様々な人物を出会うことで、侵略者にわずかばかりの変化が現れ、ガイドにも侵略者へのわずかばかりの理解が進むことが、ものがたりのテーマにもなっているのかなと感じさせます。

 そして、いよいよ侵略の始まりです。



2017年公開。129分
・監督:黒沢清
・出演:長澤まさみ、松田龍平、長谷川博巳、高杉真宙、恒松祐里、小泉今日子、満島真之介、前田敦子、笹野高史、東出昌大
・音楽:林祐介



<侵略者たち>
 いままでも様々侵略者が知らないうちに日常社会に入り込んできました。日本映画では、人間の頭部を乗っ取り人間排除を企てる「寄生獣」(2014年)。海外映画では、人間を洗脳して支配しようとする「ゼイリブ」(1988年)、そして知り合いが次々と別人のようになってゆく「SF/ボディースナッチャー」(1978年)、この作品は「ボディースナッチャー/恐怖の街」(1956年)、「インベージョン」(2007年)と3作品作られています。他にも、宇宙観測所で金属音を探知したことから何者かに狙われる「アバイバル」(1996年)などなど、いつのまにか周りが知らない何かに入れ変わっていますよ。





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