天国と地獄



 靴製造メーカ重役の権藤(三船敏郎)の元に子供を誘拐したという電話が掛かってくる。犯人は3000万円の身代金の要求をだすが、やがて誘拐されたのは権藤の子供ではなく、運転手の子供であることが判明する。権藤は全財産を賭け会社乗っ取り計画としていたが、子供の命を引き換えに身代金を払うか、会社乗っ取り計画を遂行するか悩むが、身代金を支払うことを決意する。そして犯人の指示を受け身代金の入った鞄を抱え特急に乗り込む。

 人々を下界に見下ろすかのよう構える小高い丘の上の豪邸。窓から町全体や遠くの港までが一望できる広いリビングで繰り広げられる人間模様が、映画の前半を占めます。社長のやり方が気に食わず儲け主義で会社を乗っ取ろうとする3人の重役が、工場担当の重役権藤も引き込もうとやってくるシーンから入る。その後、重役達と権藤の主義の違いからの物別れ。誘拐犯からの電話でどん底に落とされる権藤から、さらわれた子供が自分の子供でないと分かって、身代金を払い地位も財産も失うか、子供を見捨てて用意した金で会社乗っ取りを貫くかの選択を強いられる権藤。その隅で肩を落とし悲壮感の塊の、間違えられて子供をさらわれた運転手。ここに、犯人に気付かれないように細心の注意を払いこそこそと誘拐事件に対応する戸倉警部率いる刑事達や権藤の腹心であった男の裏切り。など、ぎゅっと詰まった人間模様が、このリビングの中で繰り広げられます。リビングだけの映像のため単調になりそうですが、画面は固定されず、ひとつのカットに複数人が映し出され、それぞれの表情や動作にあわせカメラも動く。そして必ず誰かの動きが入り画面が生きていると表現していいのでしょうか、まったく退屈させません。もちろん、野心と貫禄十分な権藤を演じる三船敏郎さんや、冷静な戸倉警部を演じる仲代達矢さんの演技があってからこそ生きるのですが。

 そして後半からは「動」です。犯人からの身代金受け渡し場所は、特急電車こだま。まず車内で大事そうに身代金の入った小さな二つの鞄を抱える権藤と周りに配備された刑事たちが映し出された後(ここままではまだ静です)、犯人からの車内電話で慌しく車内を行き来する権藤と刑事たち。やがて犯人からの指示で、洗面所に入り窓の外を見ると、誘拐された少年と麦わら帽子で顔を隠した人影が小さく現われ、酒匂川の鉄橋を渡り、対岸の土手に立つやはり麦藁帽子で顔を隠した人影。そこを目がけ洗面所の僅かに開いた窓の隙間から鞄を車外に押し出す権藤。これで犯人との取引は成立ですが、ここからは刑事達が犯人を追う「動」へと移り変わります。その移り変わりのシーンはというと、ゴミの浮いたドブのような川沿いを歩く2人の刑事。刑事が画面から切れると、その川の水面に映る刑事達と反対方向へと歩く白シャツの男。やがてカメラは水面から地上へと移り男の跡を追う。これが1シーンですから、計算され尽くされたカメラワークと演出には驚かされます。この白シャツの男はわずか3畳のアパートに入り、多くの新聞を広げ誘拐事件の記事を読む。そして窓の外には丘の上の権藤の豪邸が見える。いよいよ容疑者らしき人物登場です。警察はというと、権藤の豪邸が見える公衆電話の捜査と誘拐に車が使われたことからその誘拐ルートの聞き込みを行い、徐々に範囲を狭めてゆく。この警察の動きの中でも「動」と「静」が混ざり合っています。警察の捜査会議は、狭い会議室に数十人の男たちが、うちわを扇いで密集状態。そのランダムの動きが、ある刑事の報告によりピタッと止まる。その一瞬の静止画の中で動く首振り扇風機。多くの人を使っての「動」と「静」、絶妙。ひとつひとつのシーンに無駄がないですね。さらにさらに、身代金を入れた鞄に仕込んだ、燃やすと色付きの煙が出る仕掛け。この作品はモノクロ映画なのですが、なんと町の煙突から昇る煙がピンクです。モノクロという静寂の中に浮き出すピンクが色視覚の「動」としてインパクトを与えます。ん?このシーンどこかで見たことあるなと思ったら「踊る大走査線 The Movie」で、和久さんが軟禁された焼却所の煙突からも色つきの煙が出ていました。あの作品も誘拐ものですから、オマージュかもしれません。そして、やがて捜査の末ほぼ犯人を断定できたのですが、な、な、なんと、これでは罪が軽いから極刑にさせようと刑事達が罠を仕掛け犯人を泳がせる(これって当時でもあり?)。また、ここまで完璧な誘拐犯罪を行っていた犯人がまんまとこの罠に嵌ってしまうのです。この犯人の泳がされるシーンでも、多国の言葉か書かれた人、人、人の喧騒とした酒場や、多くの麻薬中毒者がゆらりゆらり徘徊する場末の裏通り、など多くの人を使った「動」が使われ、1964年東京オリンピックや新幹線開通前のまだ物騒で怪しい雰囲気の町が描かれています。

 ラストは犯人と権藤との1対1のシーンで、どこでの対面かは書きませんが、裕福な権藤と貧しい犯人の天国と地獄が、破産した権藤と身代金をせしめた犯人の地獄と天国に変わり、やがて天国と地獄へ揺れ戻ってゆく様が、落ち着いた権藤と冷静さを失ってゆく犯人を対照的に映し出しています。そして本当のラストはガシャーンと幕引きされました。さすが黒澤監督作品、面白かった。

【予告編】

1963年作品。143分。
・主演:三船敏郎、仲代達矢、香川京子、三橋達也、佐田豊、木村功、加藤武、山崎努
・監督;黒澤明
・音楽:佐藤勝
・原作:「キングの身代金」エド・マクベイン




<誘拐の日本映画>
誘拐を題材として日本映画は...結構ありますね。タイトルに「誘拐」の文字が入っている作品では、ずばり「誘拐」(1997年:渡哲也主演):大企業の重役が誘拐されベテラン刑事とロス市警帰りのプロファイラー刑事が大金の身代金を持ってマラソンのように走り回される作品。「誘拐報道」(1982年:萩原健一主演):宝塚有学童誘拐事件を描いた作品。「誘拐ラブソディー」(2010年:高橋克典主演):全てを失った男が子供を誘拐するが、ヤクザの組長の子供であったために警察とヤクザの両方に追われる作品。「大誘拐 RAINBOW KIDS」(1991年:北林谷栄主演):山林王の老女が三人の若者に誘拐されるが、老女が主導権を握るコメディータッチ作品。他には、「踊る大走査線 The Movie」(1998年:織田裕二主演):警視庁副総監が誘拐され所轄湾岸署の面々が捜査に加われないながらも活躍する作品。「アマルフィ女神の報酬」(2009年:織田裕二主演):イタリアで少女が誘拐され事件交渉に外交官黒田が関わる作品。他にも「ボクの女に手を出すな」(1986年:小泉今日子主演)や「ションベン・ライダー」(1983年:永瀬正敏主演)などがあります。

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