幸福な食卓



 ある朝、中原家の食卓で、父が突然「父さんな。今日で父さんを辞めようと思う」と宣言する。その言葉を聞いた中学生の佐和子は、一瞬「えっ」と発するが、その後のショックは少なかった。中原家では、家族想いの母が突然家を出て、高校で全国一位であった兄が農業に進む、突然宣言家族であった。

 いきなりの父から突拍子もない宣言で始まるものがたり。これは、ひとりの少女の悩み多き成長記ではなく、家族全員の成長記で、家族とは?他人とは?をあらためて考えさせられる秀作です。ものがたりに登場する四人家族のひとりひとりが悩み苦しんだ末に出される宣言は、決して軽々しいものではありません。父は父親を辞め、母は家を出て行く、兄はエリートを捨て農業へ、しかし家族がすんなりこの宣言を受け入れ、その変化に順応する空気からは悲壮感はなく、鈍詰まりから何かを見つけるためには、このようなリセットもいいのだろうなと感じさせてくれます。この四人家族で唯一宣言がなく受け入れる側の娘に、北乃きいさん。自然な素朴な感じがいい。おちゃめな明るい兄に、平岡祐太さん。家を出た母に、石田ゆり子さん。とにかくスリムで可愛い、和菓子屋の制服姿もいい。父を辞めた父に、羽場裕一さん。四人ともいつも方向転換して明るい顔を見せていますが、一転して現れる180度別の顔が、彼らが宣言せずにはいられなかった闇を垣間見せます。この家族に「他人」という刺激が入り込むことで、彼らの闇を救う様はいいです。その刺激は、佐和子の中学校に進学高校に進むために転校してくる「大浦勉学」(勝池涼)。明るく前向きで、真面目な佐和子とは対照的だけれども、波長が合う。中学・高校時代の二人を見ていると微笑ましく楽しく、佐和子が大浦との別れ際に、嬉しそうに発する「おっ」が、可愛らしく二人の関係を応援したくなります。そして、もうひとつの刺激が、兄の恋人「小林よしこ」(さくら)。平気で二股して、ぶっきらぼうで口の悪い女性。でもその態度とは違い、土産に手作りのシュークリーム(卵のから入り)を持参したり、兄の部屋にある映りの悪い写真の替わりに、手書きの自画像を持ってきたり、普段表に出さない内面をチラッと見せるあたりが、当初嫌っていた佐和子が、この人が兄を変えると信じてしまうほどの刺激となっています。この刺激たちが残す、「家族は簡単に作れないけど、簡単に壊れない」、「気付かないところで、色々守られている」という言葉が、ある出来事で最も傷ついて立ち直れない佐和子を引き上げる助けをしてくれます。そしてラストの、ミスチルの「くるみ」をBGMに、川沿いの土手を歩く佐和子。足取りが重く、時折後ろを振り返りながら歩く様子が、徐々に前だけを向き足取りもしっかりと変わってゆくシーンは、まさしくその言葉通り。そして、そのシーンにインサートされる、食卓に並べられた四枚の皿の画像。これもまた、その言葉通り。

【予告編】 【くるみ】

2007年作品。108分。
・出演:北乃きい、勝池涼、平岡祐太、さくら、羽場裕一、石田ゆり子
・監督:小松隆志
・音楽:小林武史
・主題歌:「くるみ –for the Film- 幸福な食卓」 Mr.Children 
・原作:「幸福な食卓」瀬尾まいこ


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